ヒロコアラカ記

Hiroko Arakaki / アラカキヒロコ の公式ブログ

がんのはなし #5 - 検査ラッシュの巻

※直腸がんにかかった筆者の体験記録のシリーズです。前回記事は がんのはなし #4 - うろたえながら現実を味わうの巻 

 

はじめてのCT検査

「直腸がんステージⅢ以上、かつ中絶手術をしないと治療が進められない」と告げられた私(と夫)は、1週間の心の準備期間を経たのち「進めてください」と主治医のFちゃんに返答した。
お腹の赤ちゃんと向き合った期間の話はあらためて書くことにして、今回は返答したその日からスタートした各種検査の体験について記しておこうと思う。

兎にも角にも、まずは人生初のCT検査から始まった。

病衣に着替え撮影室に向かうと、手前の部屋で専門の先生が待機しており「何かあったらすぐ行きますからね」と言葉をかけられた。心強い。
装置の台の上に横になり、左腕にルートを作ってもらう。ヨード系の造影剤(イオパミドール)を注入されるとそこから体がポカポカしていく。熱を感じるのは血管が拡張するかららしい。注入された左腕から喉や胸のあたり、次にお腹、と若干圧迫されるような感じで熱くなっていき、造影剤が静脈を辿って体に行き渡るのがわかる。
事前に「下腹部までくると、おしっこを漏らしたような感覚になるかもしれません」と言われたがなるほど本当だった。予備知識を授けてもらって本当によかった。知らなかったら「すみません!漏らしたかもです!」と慌てふためく未来もあり得た。

血の巡りというのが存外早くて驚く。そして、それはまさに心臓が休みなくポンプとして働いてくれていることの証左……
などとしみじみしていたら、残すところ最後の1枚、あと15秒ほどで終わる、というところで急な吐き気に襲われた。
「なんか気持ち悪いです」と訴えると「あと少し我慢できそうですか?」との返答。まだ限界という感じではなかったので「はい」と答えた。
しかしそのそばから吐き気はどんどん悪化、かつ息苦しくなった。
最後の1枚を撮り終えると顔も熱く、呼吸も苦しく、脈も早く、震え、さらにお腹がこわれる感覚もあり、体の各所で同時多発デモが勃発していた。稀にアレルギー的な反応が起こる場合があると聞いたが、私はその稀な人になったのだろうか。
「何かあった」ため、待機していた心強い先生たちも隣からバタバタと駆け込んできて部屋が突如騒然とした。私を囲んで言葉が飛び交い、ちょっと医療ドラマで観るERの雰囲気だ。
夫は、その様子を部屋の外の廊下のソファで見ながら何事かと肝を冷やしていた。

結局、何か処置をしてもらったのだろうか(認識できる状態ではなかったので不明)、体内デモはほどなくコンロの火を絞るように沈静化し、「あぁ、よかったよかった」的なことを呟きながら先生たちも退室。治ってみるとさっきのは何だったのかと若干狐につままれたような気分になる。
ただ、強烈な目ボタル(「ブルーフィールド内視現象」とも言うらしい)だけがなかなか消えなかった。形的にはオタマジャクシのような無数の光が強めに発光しながらまさにホタルのような動きで視界をずっと飛び交っている感じである。
そうこうしているうちに私は検査台からストレッチャーに乗せられ(厳密には、2〜3人がかりで移乗してくれようとしていたところを、それにしては申し訳ないくらい元気だったため進言し自分で乗ったのだった。ならばもはや立って歩けばいいのでは?という気もしてくるが、経験上そこで「歩けます」なんてやり出すと逆に迷惑をかけかねないので自我をなだめて大人しくストレッチャーに横たわることにした)、病衣のまま外来の処置室までガラガラと運ばれた。わけもわからぬまま私の着替えなどの荷物を渡された気の毒な夫もストレッチャーについてきた。

「調子悪くなったって?」
CT室から報せを受けたであろうFちゃんが処置室に現れたので、私は撮影中の急な不調と、今まさに飛び交っている目ボタルのすごさについて語った。Fちゃんは問題なしと判断したようで「一応、しばらく様子見ないといけないんだよね。もうちょっと休んでてください」とにこやかに言い放ち、平熱感とともに風のように一旦去っていった。
あの目ボタルは自分史上最も鮮明で印象的なものだったのだが、Fちゃんの反応から見るにどうやらとりたてて重要な症状ではなさそうである。そしてテンションが上がっていたのは多分見えていた私だけだと思う。

人生2度目のMRI検査

子供の頃右膝の手術をしたときぶりにMRI検査も受けた。
CT検査と同じ要領で装置の上に仰向けに横たわる。ここではガドリニウム造影剤(EOB・プリモビスト注シリンジ)を投与される。この造影剤は体が熱くなったりはしない。CTのことがあったのでFちゃんも様子を見に来てくれたが、今回は特に体に異変は起こらなかった。
MRIは撮影する際に工事現場みたいなでっかい音が鳴るので撮影の間はヘッドフォンを装着する。耳元では1980年代の洋楽バラードや2010年代の邦楽ポップスが予測不能な曲順で流れてくるのだが、時折曲がミュートされて「息を吸って、止めてください」などの指示が入る。
最終的に、ちょうど西野カナさんの「もしも運命の人がいるのなら」の歌詞のオチに動揺しているところで撮影が終わった。

MRIについて一番の感想は、轟音よりもむしろ「閉所恐怖症の人、心折れそう」だった。
なぜかというと、コイルという重めの板状のものを胴体に(私のは腹部の撮影だったので)乗せ、身動きできないように固定された状態で大きくて狭い筒状の装置の中に30分ほど入りっぱなしだったからだ。とある友人の顔が思い浮ぶ。彼はリタイアするかもなぁと思う。
調べたところによると最近ではオープン型MRIといって閉所感の少ないタイプの装置もあるらしい。

はじめての大腸造影(バリウム)検査

がんが直腸のどの辺の位置にあるのかを知るには大腸造影検査が有効らしく、これも人生初のバリウムを使った検査を受けた。

検査に備え腸の中をキレイにするのに、以前受けた内視鏡検査は短期集中型の手法だったのに対し、今回は「3日間かけてじっくり」のパターンだった。
センノシド(緩下剤)、マグロコール(下剤)、テレミン(坐薬)が処方され、さらに「検査用食」なるミッションが追加に。「院内の売店に売ってますので、検査前日はそれを食べてください」とのこと。

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病院から渡された紙には丁寧にも飲み物などの間食まで摂取する時間が指定されていたので、せっかくだから真面目に実行してみた。

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日頃「あ、お昼食べそびれた」なんてこともあるわりに、『この時間帯にこれだけしか食べられない』と思えば思うほど不必要にお腹が空いてしまう人間の煩悩が身にしみる。

こうして臨んだ大腸造影検査は、一連の検査で最もアクロバティックだった。
まずお尻に穴の空いた検査用病衣に着替えて撮影用の台に乗る。そして肛門から硫酸バリウム(エネマスター注腸散)と空気を注入され、「おならはしないように我慢してくださいね」と言われながら、右、左、寝返り、などと体位変換を求められ、さらに台の角度を変えられる(ので、転げ落ちないように台の左右にある手すりをつかむ)。
試されている感がすごい。「漏らしたような感覚があるかもしれないけど実際は漏らしてないので安心してください」というCT検査に比べ、こちらはリアル粗相一歩手前の状態に置かれ外肛門括約筋の筋トレをさせられているような気分だ(でも実際はX線透視下で画像にきちんと腸の状態が写るようにするため腸壁に満遍なくバリウムを貼り付けているだけだと思う)。
そんな冷や汗じみた状況ではあるが、実のところ私にとっては意外と楽しい時間だった。なぜなら自分の腸の様子がリアルタイムで観察できる画面が視界にずっとあったからだ。
身体を動かせば画面の中の大腸の位置も動いて変化し、腸内のバリウムが流れていくのが見えるのだ。面白すぎる。わざわざ腹を切り開かなくても自分の内臓の、しかも内部の様子がリアルタイムで確認できるなんてすごい(今更すぎる文明への驚嘆)。私の大腸も、図説などで見る大腸と大体同じようなポジショニングだったし、そしてやっぱりモコモコしていた。

なんでもバリウムは24時間以内に排泄しないと腸内で固まり大変なことになるらしく検査後は下剤を渡され、きちんと飲むよう念を押された。
しかし、私にとってはバリウムより凶暴だったのは腸内に注入された空気だった。本当の「お腹が張る」とはこういうことかと。痛い。座るともっと痛い。下剤を飲んでトイレに行けばすぐ風船の空気を抜くように腸が萎んで元に戻るつもりでいたが、違った。検査後しばらく、お腹をさすりながら歩いたり病院内のトイレを出たり入ったりしていた。

はじめての胃の内視鏡検査

もう、ついでに念のため胃も検査しちゃおう、ということでこれまた人生初の胃の内視鏡検査も受けた。
胃の中を見やすくする薬を飲み、ゼリー状の麻酔薬を喉に滞留させたあと飲み込まず吐き出す、というステップを経て、検査用のベッドへ案内される。口にマウスピースをつけ、鎮静薬を投与されてほどなくすると意識が遠のいた。内視鏡を入れられるあたりから記憶がない。よって、記録できることはほぼ無し。
検査は寝ている間に終わり、寝ぼけまなこで夫に家まで送ってもらった。ちなみに検査結果によると胃と十二指腸に特に問題はなかったようだ。

以上、私の直腸がん手術前に受けた一連の検査に関する記録でした。

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【関連記事一覧】
#1 - はじめに
#2 - 大腸内視鏡検査の巻
#3 - おめでた、そして告知の巻
#4 - うろたえながら現実を味わうの巻
#5 - 検査ラッシュの巻